No.049 Louse 上古:sirami アイヌ:onneki
即ち、第一子音は「合致しない」。

ここで難しそうなのは方言の扱いであろう。

比較的近年に行われている日本方言でシラミのことをキザシ、キザサなどとも言い、10世紀に編纂された『倭名類聚鈔』にはシラミの子を「木佐々」というとある。更に『大隅風土記』(逸文)に溯れば「キサシム」という俗語もあった。日本の上古語として、kisa- を使えないのだろうか。

アイヌ語であげられているonnekiは、onne-kiと分析し「大きい(原義=年寄りの)・頭虱」である。これで、第一子音を比較したのでは日本語の「虱」とアイヌ語の「大きい(年寄りの)」という意味する語彙を比較してしまっていることになる。虱はkiまたはrasiという。

つまり、上古:kisa--アイヌ:kiを対比すれば第一子音は「合致する」ことになる。上古語に採用する語彙の収集範囲をどこまで広げるか、或いは各地方言をどこまで採用するかということが比較対象とする語彙の選択の際の問題であろう。

このように、確かにアイヌ語onne-kiがシラミの意味ではあるものの、その語構成を吟味しないと上記のように意味の違う語の間で第一子音を比較することになる。