「起源」雑考・3
借用語、を考える

orig: 2003/08/21
rev : 2003/08/24
「テレビ」は何語か。現代日本語である。この語の出自、すなわち「語源」、は英語の television であり、その品物、技術と共に米国から借用した語だ。これは、この借用が現代に起こったことで、我々の記憶に(そして数多の記録にも)残っていることなので自明だ。(なお、テレビ技術は日本人高柳健次郎の発明が世界初(1926年12月)で、ブラウン管による電子式受像に成功したが、どう呼んでいたのかは知らない。)

こんなことを書くのは、例え「テレビ」というような音(おと)がアジアの何処かの言語で「絵」を意味していたとしても、それが語源では有り得ないし、ましてや、それを根拠に日本語の起源がその言語だ、というのは有り得ないからだ。巷の起源説、語源説には、このような配慮さえしていないものがある。

「雨合羽」は何語か。雨の時に着るコートのことであり、雨(あめ、あま)は日本語。合羽はポルトガル語のcapaからの借用(16世紀)という説がある。(外国語からの借用語でも漢字で表記することがある、日本語と借用語の合成語がある、ということも知っておきたい。)

これをもって、ポルトガル語が日本語の起源だ、と誰が言おうか。合羽の「語源」はポルトガル語にある、というのは良いとして、日本語の「起源」がポルトガル語ではあるまい。

「語源」と「起源」は区別したい。「語源」は特定の単語の由来。「起源」は言語(日本語)の由来。

日本語の起源を探ろうとする場合に検討すべき語彙はなるべく古いもので、借用語を除く作業がなされなければならない。例えば鎌倉時代に外国語から借用された単語や、江戸時代に日本語内部から発生した新しい単語なんかは、日本語の由来を遡るよすがにならない。

また、言うまでもない事ながら、一事が万事ではない。例えば、まほろば とロマ(ジプシー)の mahalava が似ているから、と言って、それ一事で日本語の起源(日本語語彙の大半)をジプシー語に求めることは出来ない。(これが まほろば の「語源」かどうか、ならば検討の価値はあるやもしれないが。)

「天地」は何語か。古事記本文の冒頭の二字である。「テンチ」と発音すればそれは漢語を日本風に(日本語の音韻体系で)読んでいる。「あめつち」と読めば、表記に漢字を利用しているが日本語を表したもの、ということになる。「天」という概念を「あめ、あま」ということは少なくとも古事記程度(AD720)には古い。
「ふとまに」という語が古事記に出てくる。占いのことと考えられている。古事記に載っているので、とりあえず日本語とするのだろうけど、「ふと」が「太い」かもしれない、とは直感が働いても「まに」がどうにも解読できない。占い、なんかは文化として借用も有り得そうだから「ふとまに」がすんなり解読できるような言語が見つかると面白いのだが。

このように古事記や日本書紀など古い書物に載っている日本語らしい語で意味が解読出来かねるものが沢山ある。神名などはその顕著なものだろう。これらが古日本語なのか、借用語なのか、研究の方法が実におざなり(なおざり、が本当?)に見える。

起源・雑考1
起源・雑考2[日本人種?の起源]
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