井代、猪手、井手について

orig: 2012/12/29

井代(ゐで)という言葉がある。
時代別国語大辞典上代編では「井として水をせき止めたところ」と定義している。
また、「井、ゐ」を見てみると「井戸。湧き水や流水を堰きたあたえて、汲むことができるようにしたものもある。」そして「で」に関しては連濁により「で」になったもので辞書としては「て(接尾)」を参照しろ、と書いてある。

そこで「て」(接尾語)をみると「(a)場所をあらわす名詞に接して、その場所(地形)・方向・側面であることをあらわす。(b)略」とある。

従って「ゐで」の意味は上記を機械的に結合すれば「井戸の場所(地形)、井戸の方、井戸の側面」という概念になる。

ここで「井戸」と云われるとどうしても地面を掘って伏流水を汲み上げる設備をイメージしてしまうが、国語辞書にも「1 井戸。掘り抜き井戸。2 湧(わ)き水や川の流水を汲み取る所」とあるように流水を汲み取る所をも意味する。

沖縄古語辞典は「かは【川・井泉】」として「井泉。井戸。・・湧出する泉を石積みなどで囲ったものをカーといい、共通語の川は首里・那覇方言などではカーラという。但し固有名詞では「こくばガー」(国場川)のようにカーという場合がある。カーはカワの音変化した形。」と書く。

これらから「かわ」「いずみ」という音でイメージされるものはやや狭義に、限定的になっているような気がする。すなわち古代を考えるに当たっては「川」「泉」「井」はまとめ得る概念として捉えるのが良さそうだ。

「井手」という現代語は人工の「用水路」を意味している。飛鳥稲淵の棚田における「井手あげ」という作業が紹介されている。http://www.asukamirai.org/cn26/pg145.html この記事では「大井手」、「下ノ井手」という呼称も使われている。「手」は「て(接尾語)」で「代」と書かれ得る。自然本来の「井」ではない、人工的に造った「井」であるから「井代、井手」という理解をしている。

古代史の「猪手」:
第4代天皇(懿徳)大倭日子鋤友命 の配偶者は四通りに伝えられている。すなわち、
古事記    師木県主の祖 賦登麻和訶比売命 亦名 飯日比売
日本書紀本文 安寧の子の息石耳命の娘 天豊津媛
日本書紀一書 磯城県主葉江の男弟猪手の娘 
日本書紀一書 磯城県主太真稚彦の娘 飯日媛

つまり「猪手」=「井手」、これの娘が「泉媛」というのはキレイだ。この先代、先々代の天皇妃も「川派媛」「川津媛」であり「井、泉、川」が揃っている。

次に「賦登麻和訶比売命」について考えてみる。既にhttps://dai3gen.net/futo.htmにて述べているように「賦登」が「太」を意味することには無理がある(甲乙の仮名ちがい)。

「賦登」がアイヌ語 put=河口(川の合流点)を表していると解釈すると、「麻、ま」に関しては「Ma, マ, 半島, 小島, 沼湖, 入江, (河又ハ海ニ続ク)」{バチェラー辞書}という解読が相応しくなるし、最後の「和訶、わか」は wakka 水 であるとして「賦登麻和訶」が「川の合流点(付近)の沼湖の水」と訳出することが出来る。すなわちこの名称も「井、泉、川」概念に属しているようだ。

沖縄古語辞典には「てるかは」という項目があり「てるかは【照る日】 太陽神のこと。「かは」はカーの音を表記したもので「ふつか」「みっか」の「か」と同源である。」とする。また「みづかは」という項も立てられており同様の語義である。「井、泉、川」概念は音通により「日」にも通じている可能性に目配りしておく必要があろう。

例えば上記にある「飯日ひめ」の「飯日」、読みは「いひひ」であろうか。「飯」は単に「ひ」とも読むので「飯日」で「ひひ」もあり得るし「いひか、ひか」とも読めそうである。「日→か→かは→泉」とつながってこの姫様の名前も「井、泉、川」概念に属するのであろうか。

(神武記(吉野)に「井氷鹿」という吉野首の始祖が出てくる。「飯日」は「いひか」と読むのも可能ではあるが「井氷鹿」は「ゐひか」であり軽々に繋げて考えるわけには行くまい。しかし「井光」伝承が丹後では「伊加里ひめ」という名に対応しているので「ゐ」と「い」の差異は小さいのかも知れない。参考:丹後と吉野の関係


他の「猪手」
小墾田 猪手(をはりた の ゐて)飛鳥時代の人物。壬申の乱(672年)で、都を脱出した大津皇子に同行した。今でも飛鳥(稲淵)には棚田があり用水路を「井手」と呼んでいる。「小墾田」(棚田のことか?)の為に「井手」開発に関わったのでもあろうか。

土師 猪手(はじ の ゐて)皇極天皇2年11月1日(643年12月20日)没。飛鳥時代。「井手」との関連不明。

肥君猪手(ひ の きみ ゐて)白雉1 (650)生まれ。「井手」との関連不明。


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