アイヌ語地名のQ&A アイヌ語地名のQ&A

orig: 96/07/30
rev1: 97/07/15 format/wording


小生がアイヌ語語源らしい地名探索をしているに就いて、ぶんいちさんから、基本的スタンスに関わる御質問を頂き、自分の考えを整理する意味でも好機会でしたので、ここに収録して置きたいと思います。 Many thanks to ぶんいちさん。

(Q・)と(A・)の部分はなるべくORIGINAL通りに残しましたが、一部 UPDATEやら 言い回しを直しています。(R・)にて、今回の追記を入れました。

(Q1)日本各地の地名をアイヌ語で解釈する....という作業をされてますが、これは日本の地名の多くがアイヌ語によって構成されている、とお考えだからでしょうか?
(A1)「多くがアイヌ語」、とは思いませんが、地名が移住民によっても引き継がれる傾向が強いそうなので、「先住民が今のアイヌ語の先祖の言語を使っていたとすると、地名にその痕跡が残っているハズ」と思って調べております。

ヨーロッパの研究では、移住民の言語に、先住民の単語が混じり込むチャンスとしては、他の単語に較べ地名が最も高く、殊に河川名の残るチャンスが非常に高いそうです 「ライン」など5千年位まで遡れるものもあるそうです。身近(?)な例を米国に取ると、殆ど英語になってしまった米国にも、ミシシッピィ川、ミズリー川、コネチカット、マサチューセッツなど、いわゆるアメリカインディアンの地名が残っています。


(R1)アイヌ語の地名研究と言えば山田秀三さんをあげねばならないでしょう。膨大な著作集の中から、私に都合の良い(^_^)部分を抜き出してありますので、「東北以南にもアイヌ語地名はあるか・アイヌ語地名序」を御参照下さい。

(Q2)日本列島の先住民はアイヌ民族の祖先とお考えなのでしょうか?
(A2)単一ではないでしょうが、アイヌ民族の祖先も日本列島の先住民の、恐らくは多数勢力、だったのではないか、と思ってます。
(R2) スサノヲのミコトが出雲に降り下ってクシナダ姫を娶ったり、皇室の祖先であるニニギのミコトが降臨して来て、南九州でコノハナサクヤ姫を娶ったり、ニギハヤヒのミコトが河内に入って長髓彦の妹、ミカシキヤ姫を娶る。これらの女性は明らかに先住民族です。彼女達の係累は、どんな人達だったのでしょうか。その後どのような歴史を辿ったのでしょうか。恐らくは決定的な答の出ない、難問なのでしょう。それに、少しでも光が当てることができたら望外の幸せです。

(Q3)アイヌ民族の祖先をいわゆる「蝦夷」とお考えなのでしょうか?
(A3)「蝦夷」の多数はアイヌ民族の祖先だと思ってますが、一部には、徴税を逃れた「和人」もいたのかな、と思ってます。この関連では、中公新書804の高橋崇著「蝦(えみし)夷」(\680)がお薦めです。

(Q4)「アイヌ語の成立」はいつ頃とお考えなのでしょうか?
(A4)難しい質問ばかりですが、これが一番の難問です。(日本語の成立、だって、いつと考えるのか、判らないんですから。。(^^;)) 大体において「アイヌ語」の言語資料が歴史を通じて殆ど無く、やっと江戸末期からか明治に入ってから記録され始めたようです。ですから、今、我々が見聞き出来るアイヌ語の言語資料は、いわば「現代/近世?アイヌ語」と、口承されてきたアイヌの神話(ユーカラなど)でしょうが、口承されてきた言語の古さ、何時頃まで遡れるのか、に関しては、研究の存在をすら存じません。

そんな中で、「和人サイド」で記録された異言語として、大隅風土記逸文にある、隼人語らしい「ピシ」=和語「浜」、がアイヌ語、pis 「浜」と通じそう(これは多くの人が指摘している)、とか、小生としては自分の発見の積もりですが、肥前風土記に、「ひちは」=「岸」と云うのが、アイヌ語 pet-char とつながるのか、また、日本書紀の応神天皇19年条に、蛙の煮たのを吉野の国樔が「もみ」と云う、と言うのと、アイヌ語 mo-mim 小さい肉、が対応しそう、とか云うのを、古い記録として収集しております。

村山七郎著「アイヌ語の研究」(三一書房)では、オーストロネシア語(いわゆる南洋諸島の言語)とアイヌ語を、かなり厳密な比較言語学の方法で比較されており、これから行くと、ん千年単位の昔に、アイヌ語はこれらの言語から別れた、ということになりそうです。

(Q5)なお、アイヌ語については全く勉強したことがないので、入門書等ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
(A5)
1.「アイヌ語入門」 知里真志保著 北海道出版企画センター
2.「地名アイヌ語小辞典」 同上
3.「日本縦断アイヌ語地名散歩」 大友幸男著 三一書房
4.「アイヌ語絵入り辞典」 知里高央・横山孝雄 共著 蝸牛社
5.「アイヌ語・千歳方言辞典」 中川 裕著 草風館
6.「萱野茂のアイヌ語辞典」 三省堂
7.「アイヌ民譚集」 知里真志保 編訳 岩波文庫570
8.「アイヌ神謡集」 同上

5.は巻頭に文法入門があったのでそれで勉強しています。また、辞書としてはシッカリした印象がありますが、ア→和のみで、和→アが無い。結構、語彙数が少ない 6.には和→アも付いていて便利。5.よりも語彙数が多い印象。。。 4.はシロートっぽいけど、両方向あり、安くて嬉しい(\1600)。  5.と6.は、各々1万円近いです。
(R5)早稲田大学の田村スズさんの辞書が出たそうですが、未だ不勉強で、お目に掛かってません。参考資料に就いては、アイヌ語関係参考文献のほうで update するつもりですので、そちらを御覧下さい。

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