「つぎねふ山城」の語義
ORIG: 2004/02/29

「つぎねふ山城」「つぎねふや山城」という句がある。
『時代別国語大辞典上代編』では、
「つぎねふ」と「つぎねふや」の項で「枕詞。地名山背(やましろ)にかかる。語義およびかかり方未詳。」 「次嶺経」という字面は、そのように宛字をした人の新解釈なのだろう。
とある。
そこで、人もすなる「つぎねふ」語源探索を我もまた・・・

結論から書いた方が話が早そうだ。「つぎねふ」は「(杖を)ついて・登る」であり、だから「山」に懸かるのではなかろうか。

「つぎ」は四段活用の動詞「つく」の連用形である、と見るものだ。清濁が違っていそうな点に就いては「つぎねふ」と読んでいる漢字を見れば「都芸泥布」(仁徳記)「川支禰布」(琴歌譜)があるので、どちらかと言えば「つきねふ」と清音に読む方が両者に無理なく共通する読みであろう。だから「つぎ」に拘らず、(むしろ)「つき」で考えるものだ。

「ねふ」を「登る」という意味に解するのは、『沖縄古語大辞典』による。これによると「上る」には「ぬふ」が相当する、と解することが出来る。(ぬふい=上り、ぬふすて/ぬふせて=上せる、ぬふてい=上る、ぬふら=上る、などがある。)

この辞典には、諸単語の発音の揺れが数多く収録されている。万葉集でも東国方言であろう、という発音の揺れが認められる例もあるが、『沖縄古語大辞典』が収める音の揺れの例は多数であり、言語活動の実体が伺われるのである。

日本の上代語を考えるに際して『沖縄古語大辞典』を参照するには、それが収録している語彙は確かに現代語ではなく「古語」を収録しているが、上代語、とは言い難い、という問題は残る。その問題は意識しながらも、なおかつ、日本語が「五十音図」による「正綴法」の束縛を受ける以前の姿を考えるには琉球諸方言の、それもなるべく古い姿を参照するのが有用である。

『沖縄古語大辞典』を参照して大いにヒントが得られた例を上げてあるので御覧頂きたい。

「ぬふ・」が「上る、登る」に相当するのは良いが、「ねふ」とは違うではないか、という点はもう少し綿密に追求が必要である。

しばしば説かれている「つぎねふ とは 継苗 で それを植える場所を ツギネ生(ふ) とする」のでは、それが何故「山(城)」に懸かるのか、見いだせない。「(杖を)ついて登る」から「山」に懸かる、という本説は如何であろうか。


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