歴史・言語方面の話題をどうぞ
[リストへもどる]
一括表示
タイトル万葉集#3553
記事No2109
投稿日: 2013/08/08(Thu) 17:37
投稿者大三元
万葉集#3553は次の通りである。
 安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母

これの第4句:許弖多受久毛可 が難解である。
私案があるので提示しておく。
 許弖多受久毛可=凝りて立つ雲か
ではなかろうか。

●許弖(こて):凝りて ではなかろうか。類例:
 かて(糧) :かりて
 ぬで(鐸) :ぬりて

●多受 : 立つ ではなかろうか。の類例:
 たし : 立ち(万葉4372/3395/4423/4383)
 隔し : 隔ち(万葉3445)
 たし : 太刀(万葉4413)
 かし : 徒歩(万葉4417)
 あめつし:天地(万葉4392)
 しし : ちち(父)(万葉4376/4378)

「凝りて立つ雲」とは今云う「波の花」を指す、と思う。
奇しくも豪州の例を "Sea Foam Blankets" と紹介している。
http://www.youtube.com/watch?v=-dvEmroCHXs

そういう感性から見れば「凝りて立つ雲」に後続句「入りて寝まくも」も意味が良く通る。

日本では日本海側に多く見られる現象のようだが、関東でも見られるものである。
http://blogs.yahoo.co.jp/takitaro_shop/53320291.html

全体として:
あぢかまの(黒曜石の平岩の)
かけのみなとに(かけの港に)
いるしほの(入る潮の)
こてたずくもか(凝りて立つ雲か)(海水が雲のように沸き立って=波の花ができたか)
いりてねまくも(入りて寝まくも=入って寝たいなぁ)

なお万葉#3551に:あぢかまの かた(潟)に咲く波・・・ とある。これも「波の花」を詠んだものと見れば整合性も良い。

タイトルRe: 万葉集#3553
記事No2187
投稿日: 2017/11/25(Sat) 14:23
投稿者大三元
許弖(こて):凝りて と解くもう一つの傍証として:

『東国方言の歴史を考える』
金田一 春彦

〔注4〕
(前略)
『平家物語』の「宮の最期」という章の源三位頼政が自
害する条では、「ウツ伏シザマニ貫力レテ」とあるべきとこ
ろを岩波大系本などに「ウツプサマニツラヌカテ」と書い
ている。「ツラヌカテ」は、平曲では「ツラヌカッテ」と唱
える。ここは当時の東国方言をとり入れて効果をあげよう
としたものではないか。「ウツプサマ」もほんとうは「ウ
ツプッサマ」(あるいは「ウツプッツァマ」?)という、
当時の東国方言流に唱えるはずのところかもしれない。

http://db3.ninjal.ac.jp/SJL/getpdf.php?number=0690400500cs